どこかで風鈴の鳴る音がした。
腰かけた縁側は夏の太陽にギラギラ照らされている。

けれど、心地のよい風が自分の体を通り抜けていくので、東京の夏のような息苦しさはない。

(こっち来たの、何年ぶりだろ)

幼い頃は休みがあるたび訪れていたこの祖父母の家にも歳を重ねるにつれ、あまり来なくなった。
大学生活も終わろうとしている今、ふと思い立って二人の顔を見に来たのだ。
急な訪問にも関わらず祖父母はしわくちゃの顔に更にしわを増やして喜んでくれた。

来年も来るか、なんて考えつつ祖母が出してくれたラムネを飲む。舌の先を少しつきだすと、瓶の中のビー玉に当たった。


『そうちゃん、ビー玉ちょうだい』

懐かしい声と白い帽子が脳裏に浮かぶ。

『ちょっと待ってな、今飲んじまうから』
幼い自分がラムネをごくごくと飲み干す。そして、少し蒸せながら瓶を逆さに振った。しかし、いくら降ってもビー玉は落ちて来ない。人差し指で瓶の口を弄ってもみるが、一向に瓶の中からビー玉が出る様子はない。

『なっちゃん、無理だ。出でこないよ』
業を煮やして自分が言うと、目の前でそれを見ていた少女が膨れた。

『何とかしてよ、男の子でしょ』
『そんなこと言われても……』
やけになって大きく腕を振ると、手が滑って瓶が地面に叩きつけられた。

『あ』

原型を無くしたガラスの間から、ごろりと青いビー玉が現れた。
彼女はそれを拾い上げると、こっちを向いて笑った。

『きれいだね』


風鈴の音でふと我に帰る。
やけにくすんだ色の白昼夢。八ミリフィルムの映画みたいだ。
あの頃は何よりも美しく見えたビー玉も、今はただの青いガラスだ。
そうやって、子供の頃の幸せががどんどん霞んでいく。

(みんな、大人になるのかな)

色んなものが変わる。子供の自分が嫌いだったものになっていく。やるせなくなって縁側にごろんと寝転ぶ。


「そうちゃん、ビー玉頂戴」


懐かしい声がした。
垣根の向こうを見ると、白い帽子に穏やかな笑顔。
なんだかひどく泣きたい気分だったけど、ラムネの瓶を握りしめて彼女に駆け寄った。

(変わらないものも、きっとある)






A feigned smileの水無月ゼロ様への捧げものです。
「ラムネ瓶と君」でリクエストを頂いたんですが、ご期待に添えるものとは到底思えず……。
どうか、貰ってやってください(土下座)





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