この家に産まれる娘の名はいつも「月香」という。そして、七番目に産まれた「月香」、それが私である。
けれど、私は父にただの一度も自分の名を呼ばれたことはない。父はあの低くざらついた声で「七番目」と私を呼ぶ。



「七番目」
頭の隅で父の声が聞こえた。まだ時間には早いから私がおかしいのだろう。
「七番目」
頭の中ではまだ父の声が駆け回っている。まるで脳味噌を父に舐められているているようだ。
(彼の舌もざらついているのだろうか)
私はまだ生えきっていない舌の先を指でつうと撫でた。

格子の嵌められた窓から外を見ると、日はすでに落ちていた。
あと少し、あと少しで父が帰ってくる。
お、か、え、り、な、さ、い、と唇を動かしたけれど、切られたばかりの舌では声は出ない。それが元の長さになるまであと半月。



私を産んだ女の名は「月香」、そして私もまた月香を孕むのだろう。そうしてて月香は月香として死んでいく。