*微グロ注意




私が「彼女」の存在に気づいたのは少し前のことだった。


両親が失踪し、私は祖父母に引き取られた。
「今日からここが●●ちゃんの部屋だよ」
祖父は私の頭をくしゃりと撫でて、寂しそうに笑った。
私にあてがわれたのは母が昔使っていた畳の部屋。その隅に「彼女」はいる。
「彼女」という存在は非常に不安定で、はっきり見えるときもあれば、霞んでいたり、あまつさえ全く見えないときもあった。
まるで幽霊だ。けれど、私は「彼女」に不思議と恐怖を感じることはなかった。


ある日、私は「彼女」が何かを食べているのに気付いた。
「何食べてるの?」
私は初めて「彼女」に話しかけた。

「あなたのおじいさんとおばあさんが殺した人の肉」

「えっ」
口から間抜けな声が出た。
私の祖父母が人殺し?そんなはずはない。それはどういうことかと問おうとしたが「彼女」は、霞んでいき、そして、消えた。
祖母の呼ぶ声がする。多分、夕飯ができたのだろう。

夜中、目を覚ますと「彼女」が私の枕元に立っていた。
どうかしたのか、と問うと、「彼女」は「右から二番目。畳の下」とだけ呟いて消えた。
彼女は私に何かを伝えようとしている。おそらく、畳の下にあるものか、それに関する何か。
私は布団をどかして右から二番目の畳を持ち上げた。それは思ったよりもあっけなくどかすことが出来た
甘酸っぱい匂いが鼻腔をつく。何かが腐っているかのようだ。
否、腐っていた。
畳の下にあったのは、私の両親の屍体。
「お母さん……!お父さん……!いやぁぁぁぁぁ!」
廊下から足音がする。私は崩れ落ちた。ドアが開き、祖母が顔を出す。
「見ちゃったんだ……」
何故もっと早くに気づかなかったんだろう!そのために「彼女」はここにいたのに。
けれど、もう遅い。私はもう死ぬのだから。



私は今、この部屋の隅にうずくまっている。一体「私」は何回こんなことを繰り返すのだろう。 祖父母が両親を埋めている。だから、もうすぐ次の「私」がやって来るのだろう。
そして、私は私の屍肉を一口食んだ。
「私」は「私」を待っている。この歪な螺旋から抜け出すまで何度でも。

目の前に散った赤い血がまるで花のようで、私は少し微笑った。