(檸檬と目眩、それから洗面器)

何か得体の知れないものと手を繋いでいる、そんな気がした。

目の前を歩く、二人の女。一人は若いとも年老いているとも言えないが、時々見せる横顔が疲れた色をしている。そして、もう一人は五歳くらいの少女だった。親子のように見えるが、二人の間には会話はなく、固く繋いだ手だけがぶらぶらと二人の間で揺れていた。
この二人が何者なのか、それ以前に何処に行こうとしているのか。私には解らない。

(X線と白いベッド、それから小さな肉塊)
「どうして、目的が解らないのに歩き続けているの? 」
唐突に少女が口を開く。女は何の反応を見せない。だが、彼女はそれに構わず続ける。
「どうして、得体の知れないものと手を繋ぐの? 」
やはり、女は答えず、ただ機械的に歩を進めている。けれど、彼女はそれを気にも留めない。
「ねぇ」
彼女が振り向いて笑う。
私は曖昧に頷く。その答えが不満だったのか、手の中の小さな白い指がもぞり、と動いた。