教室の時計の針は生徒の祈りを原動力にして回る。そんな気がする。

教科書を読み上げるだけの授業に食傷気味の生徒達は、さっきからちらり、ちらりと時計ばかり見ている。かく言う私も五回目の時計チェックをすませたところだ。
この授業が十分も残っていることに若干失望。頬杖をついて、窓の外を眺めた。

せめての暇つぶしに向かいのビル(私の高校は、比較的大きな都市に建てられている)の窓の数を数えていると、屋上に揺らめく黒い影を見つけた。
まさか飛び降りか、と目をこらしてみた。

影は、到底人とは思えないような歪な形をしていた。

− あああ。

その時、私の脳裏に浮かんだのは腐り落ちていく兎だった。
美術館で見た、死に、虫がたかって朽ちていく兎の時間を早送りにした映像。
影の主は、その兎だ。

ゆらゆらと、躍るように兎は屋上に立っている。
その動きはだんだんと激しくなる。やがてバランスを崩すようにして、落下した。
崩れて顔もないはずの兎が、こちらを向いて笑ったような気がした。



「きりーつ」
気の抜けた声が聞こえた。
私は慌てて立ち上がって、軽く腰を折り、再び席に着く。

窓の外を見ても、兎はいないし、なにかは落ちた気配はない。
あれは何だったんだろうと、考えていると猛烈な睡魔が襲ってきた。

とりあえず次のチャイムまで眠っていよう、と思った。