昨日、私の弟が死にました。
不運な交通事故でした。
私は嘆きました。彼の短い生涯を、残されたもの自分の悲しみを、たくさんたくさん嘆きました。
かえして、わたしのおとうとをかえして。 涙を流しながら声が渇れるまで叫びました。


気づいたら、私は温い布団の中にいました。
そして、ようやく気づいたのです。

私には弟なんていないことに。
すべては悪い夢のなかの出来事に過ぎなかったことに。

けれど、もしあれが夢だったのなら、私のあの悲しみは一体なんだったのでしょう! 私の中の何処からあの涙が、嘆きが、叫び声が、出てきたのでしょうか!

感情なんて所詮そんなものなのです。 あくまで自分という器を埋めておくためのものでしかないのですから。
それより驚きなのは夢と現の区別がつかない恐怖。

私はのそりと身体を起こして、居間へと向かいました。 そして、そこの隅っこにひっそりとおいてある仏壇の前に静かに座ります。



( もし、あなたもわたしも夢の中にいるに過ぎないのだとしたらどうしますか?)
そう問いかけましたが、黒い額縁に囲まれた妹は、ただ薄く甘く微笑むばかりでした。