(さあ、会いに行こう)



「なら、君はどうしても月に行くって言うのかい? 」
男は窓枠に留まる鷹に問いかけると、彼は翼を羽ばたかせてその言葉に答える。
開け放った窓から吹き込む夜の風に弄ばれた長い髪に頬を撫でられ、男はくすぐったそうに笑った。
「君の想いは月に届くかな? 」
さあ、とでも言うように鷹はきゅるると喉を鳴らす。男はその背を愛おしそうに撫でた。
「じゃあ、行っておいで」
そう男が言うと、鷹は大きな翼を広げて飛び立つ。
その瞳には広大な空の真ん中にうかぶ満月を映して。


鷹が飛び立った後も、男は窓枠に頬杖をついてほの赤く光る月を眺めていた。
地球に寄り添う唯一つの星。
彼女に恋い焦がれたの一羽の鷹だけではない。


「僕に翼はないから、さ」
男は歌詞のない、旋律だけの歌を口ずさむ。
その歌は誰に知られることもなく夜に溶けていった。



(きみのための歌を届ける)