何故猫を殺していたのかと問うと、彼女は笑っていった。
「今日が金曜日だからです」
さっきまで公園で猫を殺していた彼女はおれのバイクの後部座席に座っている。
ああ予想外の出来事です、ちょっとした恐怖です。
おれの体を後ろからぎゅっと抱きしめる(バイクから落ちないようにするためであることは言わずもがな)彼女の体温を制服とセーターごしに感じる。
ちなみに何故彼女が気温23度にもかかわらずセーターを着ているのかというと、ワイシャツをうっかり血で汚してしまったからだという何ともまあ物騒な理由からであった。

「とりあえず勢いに任せて飛び出したはいいけど、何処に行けばいいんだ?」
「そうですね、のどが渇いたのでマクドナルドにでも行きましょうか」
彼女は妙に丁寧な口調で答えた。それだけはおれの認識するいつもの彼女。
おとなしくて優等生で学級委員長と言う立場がこの上なく似合っていてピアノが得意なクラスメイト。おれとは縁遠いクラスメイト。
もっとも、今は自分が殺した猫の返り血がついた服を着たまま平気でマクドナルドに行けるような人間であることを知ったのだが。


「いいんちょー」
「なんですか」
「さっきの金曜日だから、ってのどういう意味?」
「ん、其れでは私が猫を殺す理由にはなってませんか?そうですね、どう説明したらいいのかよくわかりませんが…。猫を殺すという行動は私のライフサイクルに含まれているんです。もちろん猫のことはカワイソウだと思ってますよ。 警察に捕まったら素直に刑に服すつもりです。でも、これは仕方ない……仕方ないって言ったら猫に失礼ですね、やめられないんですよ」
「もうひとつ質問していい?」
「どうぞ」
おれは一つ溜息をついた。マクドナルドまでもう少し。
「いいんちょーのあの性格って演技なの?」
「そうですよ」
案外さらりと認めたもんだ。
「人ってやっぱり他人の前では多少なりとも演技しているんだと思うんですよ。例えば、聞きたくもない話を心底楽しそうに聞いてみたり。見たくもないテレビを見たり。そうしないと人間社会で生きていけないでしょう?特に私のような人間は尚更。何枚も仮面を被らないと」


マクドナルドの前に到着。彼女を降ろし、バイクを駐めた。

「いいんちょー、最後の質問」
「はい」
「今演技してる?」
「もちろん」

彼女は綺麗な瞳を細めて答えた。その顔はどことなく猫に似ていた。
そして、彼女は少し背伸びをして俺の首を抱くようにする。

金曜日の夕方、おれは仮面ごしに彼女とキスをした。