あたしは、魔法使いなんだ。



街一番の大きなお屋敷があたしの家。
でも、あたしはこの窓から見える範囲しか外を知らないから、わたしの住んでいるところがどんなところなのかは知らない。


おじいさまは言う、
「街はこわいところだ。だからおおきくなるまでいってはいけないよ」
だから、あたしはこの屋敷から出たことがない。
でも別に寂しくない。屋敷には、おじいさまも、おにいさまも、メイドのミシュカもいる。
それに、あたしは魔法使いだから、欲しいモノは望めばみんな出てくる。
だから、寂しくない。


ウサギちゃんを抱えて窓の外を見ていると、ミシュカが空を飛んでいた。 ミシュカがあんまり幸せそうな顔をして飛んでいるから何となくムカムカして、窓の外に向かって舌を出した。 そしてウサギちゃんに話しかけた。
「あたしは魔法使いなんだから、ミシュカにできることはできないはずがないわよね」
ウサギちゃんはガラスの目を困ったように光らせた。

ムカムカは夕方になっても治まらなくて、あたしはウサギちゃんを強く抱きしめた。こつこつと足音が近づいてくる。 そして、ドアが開いてミシュカが顔を覗かせた。
「お嬢様、夕食のお時間です」
あたしはミシュカのことが大好きだ。でも、そのときはムカムカして仕方なかった。
「出てって、だいっきらい!」
そばにあった本をミシュカに投げつけた。彼女の額はきれて、赤い血がどろりと出てきた。彼女の瞳から涙がこぼれ落ちるのを見たけど、あたしは無視した。


翌日、おじいさまからミシュカがいなくなったことを聞いた。あたしが出てけと言ったからだろう。
あたしは魔法を使ってしまったんだ。でも、寂しくはなかった。だってあたしは魔法使いだから。
おじいさまに空を飛びたいと言うと、飛行機のおもちゃをくれた。
おもちゃは空を飛ばなかった。

あたしは魔法使いなんだ。
だから、空も飛べる。
なんでもできる。
寂しくない。




その日、少女が一人自宅の窓から飛び降りて死んだ。


(あたし、寂しくなんか)




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