誰もいないはずの部屋の回るガスメーター。部屋の主である少年はそれを見て眉を潜めた。鍵をさしこまずにノブを捻るとドアは呆気なく開いた。
玄関に靴と学生鞄を放り捨てると、彼は真っ直ぐに風呂場のドアを開けた。

「ハル、おかえり」
湯船に浸かり、ゆったりと手足を伸ばしながら、髪の毛と髭を無造作に伸ばした男が言う。
「どうやって入ったのさ」
鍵はきちんとかけといたのに、とハルは彼を睨めつける。彼は長い前髪を留めたヘアピンを無造作に抜き、ハルの目の前に突き出した。
「友達に習った」
「友達選びなよ、ユキホ叔父さん」
ハルが毒づくと、当の叔父は無精髭を撫でながら笑った。
「お前こそ、な。いい友達作れよ」
余計なお世話だ、とハルは内心舌打ちする。彼はこの、歳のあまり違わない叔父が好きではない。最も、彼が好意を持つ人間自体が少ないのだが。
「それで、いつ帰るんですか?」
「せめていつまでいられるんですか、って聞けよ」
ユキホは苦笑しながら、濡れた右手をひらひらさせる。わからない、の意味だと理解したハルは眉間にシワをきゅっと寄せた。
「そんな顔すんなよ。ただで泊めてくれとは言わねぇ。飯ぐらいは作ってやんよ」
「ご勝手に」
くるりとハルは踵を返し、浴室の扉を閉めた。


「……あんたは嫌いだけど、あんたの作る料理は好きだ。
ハルが扉越しに呟くと、浴室の中から小さな笑い声がした。