「事前に言ってくれれば歓迎ぐらいしたのに」

パジャマ姿のままカエデが言う。一晩ぐっすり寝て酒は抜けたようだが、代わりに二日酔いがひどいらしく、渋い顔をしながらダイニングのテーブルに腰を落ち着けている。

「歓迎って……。乱痴気騒ぎならごめんだぞ」
炊きたてのご飯を盛りながらユキホが言う。
「ひどいなぁ。ただ三人で飲もうってだけよ」
「ハルまで頭数に入れんなよ。あいつは未成年だし、学校もあるだろ」
ユキホがカエデを軽く小突いた。
「冗談だってば」
カエデは舌をぺろり、と出すとおもむろに立ち上がった。

「ごめん、ユキちゃん。手伝うね」
「いいよ、酔っぱらい。それより、ハル起こしてきてくれ」
「もう起きてるよ」

制服姿のハルがリビングのソファに座ってテレビを着けた。画面の中では若い女性に人気のある芸能人が笑顔でインタビューを受けている。
「あ、この人」
カエデが少し驚いたように声を上げた。
「何?」
「知ってる。同級生だった」
「仲良かったの?」
「付き合ってた。三日だけ」
それを聞いて、ユキホが呆れかえった顔をする。
「三日って……」
「こっちも色々あったのよ。あ、ごはんできた?」
「ああ」
「じゃあ、いただきましょう。ハル、テレビ消して」

ハルはテレビの電源を切り、のそのそとテーブルまで移動してきた。
テーブルの上には、ほかほかの湯気をたてるご飯に味噌汁、いい匂いのする焼きシャケや色のいいおひたしなんかが所狭しと並んでいた。
「私、ユキちゃんのお嫁さんになろうかな」
「どっちかって言うと俺が嫁さんだな」

冗談を言って笑いあう二人を横目に、ハルは溜息をつく。
ふと、彼がキッチンに視線を向けると、弁当箱が二つ並べておいてあるのを見つけた。
あれが今日のお昼か、とか、二つ分ってことはユキホは外出しないのか、なんてことを考えながら彼は黙々と味噌汁をすすった。